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独特の感性と、人形細工の技術を受け継ぐ街。
人形の里、ポルカラントの朝は早い。

小さな道化と、願いと、花と
truth.2 ポルカラントとパフォーマンス


闇色の空が蒼に染まっていくとともに、
数えきれない色達が地上を埋め尽くしていく。
その正体はとても身近なもの。
この町に並ぶ家は、屋根も、ドアも、ポストも、看板も、
まるでメルヘンの世界を喚起させるようなパステルカラーが使われているのだ。

中には壁や窓枠に様々な種類の布切れを貼った家もある。
しかしこれは決してボロを隠すためではなく、
よく見るとそれは複雑な幾何学模様を作っていた。
これは一種のアートでもあり、
ぬいぐるみや人形の服を作るため、街に布が豊富にある証拠でもあった。

レンガ造りの屋根が向かい合う通りでは、
早朝であるにも関わらず人々は皆、
カラフルな扉を開け放ち外の空気に触れに行く。
ある人は散歩を。
ある人は店支度を。
そしてまたある人は、街が賑わい始める前に何やら見せ物の準備をしていたようだ。
それに気付いた人々は次々とセントラルエリアへと集まっていく。

この町には大きく区切って2つの通りがある。
南北を分ける通りと、東西を分ける通り。
それらが交わった場所がセントラルエリアと呼ばれる広場だ。

街の中心で広い広場であるがゆえ、そこは催しものをするにはもってこいの場所。
よく劇団や、サーカス団が、他の街からわざわざポルカラントまで来るほどだ。
住人たちは皆そんな団体たちの催し物を見るのが、生活の楽しみの一つになっている。

そして今日は、広場に設置された噴水の前に高さ1mほどの筒が不自然に置かれていた。
樽のような形状と大きさの筒の表面はオレンジと白のストライプの模様が入っている。
まるで、小さなステージ台だ。

今日もまた、何かが始まる。
そう予感した人々でセントラルエリアは騒ついていた。

突然、どこからかコルネットの音が響いたと思うと、
噴水の周りで煙幕が上がる。
ざわつきが途絶え、やがて音色は鳴り止む。
だが、煙の中心はなかなか見えないまま。

時を見計らったように一つの風が煙を吹き飛ばす。

するとステージの上にはどこからやってきたのか、橙色の衣装を纏った少年の姿があった。
奇抜な仮面。
先が二股に分かれた大きな帽子。
その身なりから、誰もが確信した。
あの少年がこの小さな舞台の主役、道化師なのだと。

少年は辺りに集まった人々に深々と一礼をすると、
腰のポシェットのふたを開く。
せいぜい数枚のフリスビーしか入らないであろう小さな少年のポシェット。
その中からペンキの空き缶と、1mはあるだろう木の板を引っ張り出した。

横に倒した筒の上に板を乗せて、ひょいとその上に飛び乗る。
当然筒は丸いため、軸は左右にぶれてしまう。
不安定な場所で、少年は必死にバランスを取ろうとした。

必死に。
誰もがそう見えたが、それは間違い。
少年は客に、必死であるように見せているのである。

大道芸を見る客にとって馴染みのあるこの技、
実は下の軸を固定されていない方が、重心の位置を調節できるため難度が低いのだ。
その事実を知らない客達はいつ落ちてしまうのか、とその様子から目が離せなくなっている。

達者な芸も注目されなければ意味がない。
目の前の危険な状況から目を背ける人はいない。
だからこうして、この道化師は演技をしているだけなのだ。

少年は仮面の奥でニヤッと笑うと、
自分の足場にさらに同じように筒と板を重ね、その上に飛び乗った。
なんとかバランスを取って…いるようにみせて、両手を大きく広げる。
少年はコルネットを持ったほうの手の首を回し、空に素早く円を描く。
するといつの間にか、手の中のコルネットは30センチ程の4本のナイフへと変わっていた。

少年は片腕の裾に少し重みを感じながら、ナイフを1つ空へ向かって投げた。
また1つ、また1つと投げられたナイフは、
少年の手元へ戻っては、再び空へと大きな円を描いていく。

ジャグリングの途中でつい手に力が入ってしまったのか、
ナイフのひとつが外側へ飛びすぎてしまう。
しかし、少年の腕のリーチが長いお陰でナイフを落とすことはなかった。
その失敗すら、客をヒヤヒヤさせる演技のように見せかけることができた。

ナイフで空に円を描きながら、
少年はまたポシェットから一つずつ何かを取り出していく。
やがて銀色の弧のスキマに、
ゆっくりと浮かび沈んでいく、色のついた丸いものが見えるようになった。

風船だ。
風船が割れることなく、ナイフと同じように空に弧を描いていた。

ふと少年は全ての風船を手放し、空高くに浮かばせた。
それに続くように、天に向かって投げられるナイフ。
それは、空中に浮かぶ赤青黄色の丸へ勢い良く突き刺さる。

パアァン

空色を彩っていたものが遠くではじけた瞬間、
カラフルな紙吹雪が地上へヒラヒラと舞い降りてきた。
少年は手元へ戻ってきたナイフを、刀を鞘に納めるようにポシェットの中へしまう。
そして舞台の周りを一望すると、右足を引き、右手を体に添え深々とお辞儀をした。

あのナイフも風船も、一体どのようにして収納したのか…。
芸は努力の賜物とはいえ、これにだけはタネも仕掛けもあるのだが、
客たちはそれも芸の一つに見えていた。
少年の辺りにはたちまち雨のような拍手と歓声が降り注ぐ。

「きゃあ!」

すると歓声の中、ひと際甲高い小さな悲鳴が響く。
それが合図かのように辺りの音が急に止むと、
間もなくして何かが、小さなステージ台を大きく傾かせた。

「う、うわああ!?」

樽はだるまや起き上がりこぼしとは違う。
予想外のアクシデントにステージはバランスを崩し、倒れ、
少年は小道具ごと地面に転げ落ちてしまった。

少年は強く打った腰をさすりながら、とっさに閉じた目蓋を開く。
薄茶色のタイルが敷き詰められた地面の上、
金色の瞳は薄黄色の柔らかな糸の束を映した。

「ご、ごめんなさい、私…」

観衆のざわつきを遠くに感じていると、
か細く、弱々しい声が頭上に届く。
顔を上げると、乳白色の大きな瞳と目が合った。


きっかけは、ほんの些細な出来事。


go to next truth?




道化師アドのソロパフォーマンスシーン。
ポシェットの設定もありますが、とりあえず「4次元ポシェット」と思っていただければ(笑)

完全3人称視点で書くことを意識したら、説明文みたいに。
盛り上がりという盛り上がりがなくなっちゃった…
ようやく起承転結の承の部分なのでご勘弁を;